インドはヨーロッパだ〈18〉

    インドは誰が行っても強烈な印象を受ける場所のようである。
  気候も文化も人種もなにやら特殊で、僕らが普段よく接している欧米とも東洋とも異質な不思議不思議世界がヒマラヤの南側に広がっている。
  僕らは「インド」は「インド」とヒトククリにしてしまうのだけど、実はこれがとんでもない。インド人に言わせると隣の州は彼らにとって外国であるらしい。だいたいからして州によって言葉が違うし、北インドと南インドでは民族も違う。インドとは、いってみれば「ヨーロッパ」みたいなもので、文化的基礎は同じだけど言葉も民族も違う小さな国の集まりなのだ。ヨーロッパは国際的な法規上で独立したいろんな国に分かれているだけである。そして、インドは国際法規上としては単一の国家という形をとっているが、実際にはヨーロッパと同じくいろんな国がモザイクを作り出しているのだ。
  僕が旅をして感じたことに

  ぱっと見は同じように見えてもよくよく観察すると結構違う北インドと南インド

  というのがある。
  まずサリーのこと。インド全土でサリーというのは女性の民族衣装で、彼女らは冠婚葬祭から井戸の水汲みにまで常にそれを着て日々を過ごしているのだけど、北インドと南インドではまずこのサリーの色に違いがある。バラナシのあるウッタル・プラディッシュやビハールの北インド地帯ではサリーの色は朱色がかった赤や紫ばかりなのだけれど、これが南インドのタミール辺りに行くとウグイス色やカラシ色、薄紅色とまるで和服の色彩のようなパステルカラーが中心となる。ちなみにタミールは「日本語タミール起源説」というのがあるぐらい言葉にしても気質にしても日本人と近いようなところがあって、これまた不思議である。
  カルカッタの近くにあるプリーから一晩列車に揺られてマドラスまでいくと駅のホームに下りた瞬間感じるのはゴミが散らかってないことだ。道を歩いていてもボッタクリをしようと言い寄ってくる輩も少なく「これが同じインドか?」と首さえ傾げる。
  以下僕が感じたバラナシ、ビハールあたりの東北インドとタミールあたりの東南インドの違いである。

  サリーの色 北→紫朱色 南→和服調パステル
  カレーのお供 北→チャパティ 南→ごはん
  ボッタクリ気質 北→メチャしつこい 南→けっこう普通
  英語をしゃべる人 北→多くない 南→多い
  お金 北→先に払うと戻ってこない 南→先払いしても商品が受け取れる
  道端のゴミ 北→多くて汚い 南→少なくてわりとキレイ
  民族 北→アーリア系 南→ドラビダ系
  体型 北→足が長く白人系 南→短足でコロッとしている
  顔 北→鼻が高く彫りが深い 南→ダンゴっぱなでポリネシア人みたい

  というわけで、北インドで散々な目にあった僕だけど、タミールのあたりではまるで肩透かしを食らったような過ごしやすさに驚くのだった。でも、その後仏教国のスリランカにいって、さらなる違いに驚いた。その違いときたら、ちょうどイタリアとフランスとドイツぐらいの差ではないだろうか。
  インドもバングラディッシュもスリランカも同じようなもんだと考えていたからけっこうサプライズだった。大阪人と京都人も他から見ればこんなもんなのかなあ。