<カンボジアで犬の肉を食べた話>〈25〉

  カンボジアは危険でエッチでぶっ飛ぶほど面白い事がたくさんあったけど、ここに書けないことがそのほとんどだ。で、すんなり書けそうなことを考えてみた。
  アンコールワットに近い町シェムリアップで過ごしていた時のこと。その街の近くに一ノ瀬泰造がポルポト派に処刑された村があるなんて、その時はぜんぜん知らなくって、毎日ハッピーピザ(マリファナがのったピザ。レストランでさりげなく食べられる)を食べてぼんやりギターを弾いて日々をおくっていた。そんなある日、ホテルのスタッフが現れてこう言った。
  「ハッピーピザもいいけど、たまにはチョット面白いものはどうだい」
  面白いものって何?

  「イヌの肉」

  イヌの肉。ふううん。終戦直後では日本でもよく食べたらしいし、昔は新世界の串かつもイヌの肉が牛肉と称して出回っていたと聞くが、意識して食べたことはない。ではひとつ話の種に出向いてみよう。というわけで連れて行かれたのが、飲食業を営んでいるとは思えない地元民専用みたいな食堂だった。建物の中だけど床はなくって砂まじりの地面を踏みしめながら汚いテーブルについた。もちろんメニューも何にもなくっていきなり

  「イヌのバーベキュー食べるんだよな」

  と店のスタッフらしき兄ちゃんに言われ、ひきつったようにうなずいた。引率をしてくれたホテルのスタッフの兄ちゃんも当然のようにテーブルについて「イヌのにっく♪イヌのにっく♪」と嬉しそうにしている。(奢ってもらえるからなおさら)
  「なあ。日本では赤イヌの肉が美味いっていうんだけど、カンボジアもやっぱりそう?」と聞く。
  「カンボジアでは黒イヌが美味い。精力がつくって言われてる」とホテルスタッフ。あっそう。と言ってると、テーブルには焦げ目の多いバーベキューらしい骨付き肉の皿が並んだ。ビールも頼んで、さっそく食べてみる。作り置きで冷たくってニガくて臭いニオイがしてあまり美味しいとは思わなかった。
  それでも残しちゃモッタイナイと思って、骨までガシガシとしがんだ。見るとホテルスタッフは地面にポイポイと骨を捨てている。僕も同じく骨を地面に捨てる。
  すると店の隅からモコモコと黒い影が現れて、僕らの足元のイヌの骨をバリバリと食べだした。何者! よく見ると。

  黒イヌだ! 黒イヌが足元で変わり果てた仲間の一部に貪りついているやんか!

  固まる僕を見てホテルスタッフは

  「明日来ればこいつの肉が食えるよ。がっははははははは」だって。

  ポルポト派によって人口の30%が殺されたといわれるカンボジア人のメンタリティーは僕らと違う何か少し不思議な感じがした。