ベトナム・ホームレス女にたかるハエ〈23〉

  今回のこの話には何のオチもなくて、ただ記憶の中に強烈に残っている風景のひとつである。
  ベトナムのサイゴン(現地の人はホーチミンとは言わない)で毎日ブラブラ散歩して、夜は飲み歩く生活をしていた時のこと。
  昼間の散歩は夜のビールを美味しく飲むための運動で、行き先も何も考えず汗だくになって毎日ひたすら半日ほど歩きつづけた。迷路のような下町の住宅街をさまよって窓からベトナム人の生活をのぞいたり、市場で鶏の死体がたくさん吊るされているのを見たり、オフィス街のようなところでアオザイを着たキレイなネーチャンを眺めたりと、それはそれで楽しい散策の日々だった。
  ある日、川沿いにある小さな公園に入ってみた。基本的な構造は日本の公園とあまり変わらなかったけど、強烈なニオイの生ゴミが散らかり、ベンチにはホームレスらしき3人の人影が寝転んでいた。僕は彼らに近づいて観察した。2人は男性で1人は女性だった。みんな汚い服を着て仏さんの涅槃図のような格好で目をつぶってお昼寝中であった。女性らしき一人を見るとこれがけっこう若いベトナム美人でキリリとした目元はまるで化粧を施しているかのようにも見えた。近づいてしげしげと更に眺めようと試みたが、悪臭がひどくて立ち止まってしまった。彼女の腰の回りにはハエがたくさん舞っていて、少しひきつった。
  よく見て驚いた。彼女が着るパジャマの股間には女性性器の形にくっきりと生理の血の染みが出来ていて、そこにたくさんのハエがたかり、蠢きと舞い飛びを繰り返していた。目線を変えて、彼女の顔を見るとやはり美人でスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。

  でも、ものすごい匂いがする生理の血が垂れ流しのオメコにはブンブンと大量のハエがその分泌液を舐め、幼虫の卵すら産み付けようとしているのだ! そして、それが美人なのだ!

  僕は気を失いそうになって、フラフラと宿への帰路をさまよった。早く帰ってビールを飲んで忘れたかった。でも、しこたま酔いつぶれてみた夢は、かのホームレス美人がウジを湧かせた股間から血を流しブンブンとたくさんのハエを従いながら僕に迫るというものだった。自分の制御が外れておかしくなってしまったらどうしようという意味で、本当に恐ろしい夢だった。