タイの四人乗り暴走バイク〈27〉

   タイでは、オートバイの三人乗りというのは禁止行為ではないらしく、頭が三つも生えているオンボロバイクが人ごみの中を縫うように走り抜けていくところをよく見かける。見ていてヒヤヒヤするようでありながら、奔放で大らかな気分にもなる。
  タイ東北部のスリンの郊外に滞在していた時に、そんなことに関してとてもインプレッシブな出来事があったので綴ってみたい。
  数回前に書いたマリファナ学生達とスリンの市街に遊びに行ったときのことである。学生は二人いたので僕も合わせて総勢3人が一台のオートバイにまたがりハイウエイをノーヘルでかっ飛んで行くことになった。兄貴分の学生がハンドルを握るオートバイは100ccぐらいの小さなやつだったけど、フルスロットにすると三人乗りのバイクは前輪が軽く浮き上がるような加速をみせて、田舎町から約一時間をかけスリンの市街地に飛び込んでいった。
  スリンの町のゴーゴーバーで、僕たち三人は裸で踊るネーチャンを眺めながら、しこたまビールを飲み、時に彼女らの肩を抱いてそれは楽しく数時間を過ごした。ちなみにぜんぶ僕のおごりだったのだけど。
  さてではそろそろ帰ろうということになり、三人乗りでしかも酔払い運転車と化した僕たちのオートバイは往路よりさらにスピードを高め、クレイジーに歌など歌いながらハイウエイの暗闇に突っ込んでいった。こんなベロベロになったやつにハンドル握らせて、しかも三人乗りで、俺たちどうかしてるよなあ。と、話し掛けたその時である。
  60キロ以上は出ているはずの僕たちのオートバイを凄まじいスピードで抜いていく一台の影が。見るとそれは

  4人乗ってるがな! 4人乗りのオートバイやがな! 負けた!

  抜かれた瞬間によく見ると、そのオートバイ、親二人子供二人のファミリーだった。さらに度肝を抜かれたのは、運転席に座る父親の膝に小さな子供が腰掛けていて、なんと

  その子がチョッパーみたいな格好でハンドルを握ってるやないか!

  父親はその子の腹の方に手を回し落ちないように抱きかかえている! ヒエエエ。信じられへん。アメージング・タイランド!
    あっという間に、子供がハンドルを握った4人乗りのオートバイは見えなくなってしまった。ちなみに学生たちは笑ってました。あれは本当に現実だったのかなあ。