マレーシアでは、プルフンティアンという島で幻想的なシュノーケリングをして、島をひとまわり泳いだのは、楽しい思い出だった。すでに書いた。
僕がマレーシアで一緒に行動したのは、クリスとルーシーというイギリス人のカップル、そしてマレーシア人のボブ。この4人でマレーシアのあちこちを旅した。
そんな旅の中、首都クアラルンプールでのこと。
僕とボブは二人で、シティーホール近くの広場を散歩していた。広場にはビルの10階ぐらいの高さ(に見えた)のポールに巨大なマレーシア国旗がひらめいていた。
ご存知だろうかマレーシアの国旗というのは赤のストライプと青のスクエアがあって、アメリカ合衆国の国旗になんだか似ている。僕は大した答えも期待せずボブにたずねた。
「なんでマレーシアの国旗って、アメリカのに似てるのかな?」
ボブはつぶやくようにこう言った。
「アメリカもマレーシアもイギリスの植民地だったからさ。だから国旗も同じようなのさ」
なんだか不思議な気がした。アメリカとマレーシアの歴史的共通点。そして自らの国が植民地だった過去を国旗に表現しているとは。
ヨーロッパ人による、中南米やアジアやアフリカでの植民地とは、搾取と略奪をする場所をさすという。マレーシアもまたイギリスから不平等な条約を結ばされ土地や物や人間をたくさん奪われたのじゃないだろうか。そんな暗い歴史を、アメリカとは植民地的立場も違うだろうけど、一緒にしてしまうところに妙な感じがした。
そしてその夜、民地搾取に端を発するような不思議な出来事を目撃して、変な気持ちがマスマス大きくなっていった。
僕と、ボブと、クリスとルーシーが泊まっていたクアラルンプールのホテルにはプールバーがあって、僕たちは夕食を食べた後、毎晩おそくまでそこで玉突きをして過ごしていた。
飲み物を賭けたゲームが一段落し、僕は辛うじて勝ち取ったビールをソファーに腰掛け飲んでいた。
見ると、マレーシア人のボブとイギリス人のクリスが話し込んでいた。どうやら二人で玉突きで賭けをしようということらしい。しかも飲み物ではなく20ドル賭けて。
クリスは、玉突き台の端に二つの玉をキッチリ並べて置いた。さらにその上にもう一つ黒い玉を載せた。二つの玉と台の縁枠をベースにして黒い玉は頂点になり滑り落ちず、固定されたようになっている。
クリスが言う。
「いいか、ボブ。今からオレが白い玉を突いて上にのってる黒い玉に当てることができればお前から20ドルいただく。できなければオレが20ドル払う。もちろん黒い玉は台の面からは浮き上がったような場所にあるから、簡単じゃない」
ボブはOKした。僕はクリスがアクロバティックな突き方をして白い玉を空中に飛ばして黒い玉の上に落下させるのかと目を凝らして見物していた。
ところがクリスがしたことはショッキングだった。白い玉を射程延長線上に置くと、
台を拳で「ドスン!」と叩いた!
振動で黒い玉の下にある二つの玉はスルリと動いて、黒い玉はポロンと緑の台の上に落ちた。すかさずクリスは普通に白い玉をシュートして黒い玉に当てた!
それってインチキちゃうのん!
僕は目をクリクリさせて思ったけれど、当事者じゃないから関係ない。でも、ボブは呆然としながらも文句一つ言わずクリスに20ドルを払った。
確かに「台を叩いて揺らしてはいけない」なんてことは一言も言っていなかった。だけど、この賭けを注目するべき本質的なところは、どう考えても「白い玉を如何にして空中に打ち上げるか」である。
つまりそんな風にしてヨーロッパ人は中南米やアジア、アフリカの素朴な原住民をケムに巻いて、土地や物を搾取していったということじゃないのか!
それでもボブは腐ることなく、いつもと同じように陽気にクリスと接していた。それは、植民地という歴史を国旗にまで刻まれた民族の宿命なのだろうかとさえ思った。 なんだか変な気持ちだった。 ちなみにアメリカ人の友人に「アメリカとマレーシアの国旗が似てるのは、どちらもイギリスの植民地だったからだよね」と言うと、マジにムッとしてしてました。
「マレーシアと一緒にすんなよ!」てな顔でした。