息子に麻薬密輸を勧めるオーストリアのお父さん〈34〉

  海外放浪旅行をしていていろんな人々に出会った。今回書くのはそんな出会いの中でも「ほんまかいな?!」と突っ込んでしまうような人の話だ。
  それは「タイのサントリーレッドはちょっと違う」で長期間滞在したタイ南部の町スラータニーでのことだ。
  ゲストハウス前の路上に並べられたテーブルでビールを飲んでいた。すると酔っ払いの白人のオッサンが現れて「よお。機嫌ようやってるか?」てな感じで話しかけてきた。「ああ。ええ感じでっせ」と笑顔で答えるとオッサンは僕の向かいに座った。その後、オーストリア人だというオッサンは自分のビールと僕のビールまで注文してくれると、僕とだべりだした。
  最初は「どこから来た?」「どこへ行く?」「どこがおもしろい?」「何年旅をしている?」というありきたりな会話だった。
  しかし、やがてオッサンは酔いが進むと自分のことを話しはじめた。それは僕にとって驚くべき内容の話だった。

  「俺なあ、何年か前に麻薬の密輸で稼いで、その金で遊びまくってるんだよ。ああ。たぶんタイだったら一生遊べるぐらいの金だよ」

  マジですか?!!

  「うん。ほんと。お腹にヤクの袋を貼り付けて着込んで太ったように見せかけた。バンコクからアムステルダムへ運んだ。タイで見つかったら死刑になる量だ。ヨーロッパで売ったら1億円ほどになったよ」

  ウソやろ?!!

  「いや。ほんまやねん。オレの親父も麻薬の密輸で大金稼いだ人間なんだ。それで父親に言われた。『大金か死か。お前も男やったら人生賭けて麻薬密輸やってみろ』ってな。で、俺は賭けに勝ったんだ。なあ。日本人よ。おまえもやってみたらどうだ。どうせ一度の人生だろ。でっかく生きろよ。密輸のコツは俺が教えてやるから、どうだ」

  そんなんすんのんイヤヤわあ!!

  今から思い返しても、「それってホンマのことなんかいな?」と思う。でも何度考えても、そのオッサンの真摯な表情と話の具体性からすると、それはウソとは思えなかった。
  それにしても父親が息子に「麻薬密輸をやってみろ」なんて、ヨーロッパ人の価値観の多様性を感じたことでした。世界は広いと思いました。