フィリピンの隠し財宝〈40〉

  僕の嫁さんはスペイン系フィリピン人である。でも放浪旅で出会ったわけじゃない。実はこれが小学校の同級生なのだ。彼女が小学校4年生の時、フィリピンから日本に転校してきたのだ。
  ちなみに、僕は2年半の海外放浪でフィリピンに訪れたことは実はなかった。
  かの地にはじめて行ったのは結婚してすぐ、嫁さんのお母さんのお葬式の時だった。お葬式で行ったのだから、当然観光らしきことをすることもなく、ただ数日間、嫁の実家と教会の往復を繰り返した。
  何だか退屈な日々だった。そんなわけで不謹慎ではあるのだけど、さすがに遊びに出かけたくなった。

    その当時は会社勤めもしてマジメに生きていた頃だったのだけど、放浪癖にフタをするのは難しい~。

    しかも、未知の国にいるのだから頭には好奇心が渦巻いている。せめてブラブラと散歩ぐらいはしたいものである。
  ついに僕は嫁の目を盗んで、近くのダウンタウンへウキウキと出かけた。
  ショッピングセンターで見たこともない粉末ジュースや精力剤みたいな怪しいガムを買った。裏通りにまぎれこんで庶民の家を覗き込んだ。通りで座り込んで道行く人の顔を眺めた。ああ。あの人はスペイン系だなあ。なんて思いながら。
  なんでもないようなことだけど、久しぶりに異国を冒険した気分で充実感は一杯だった。
  汚い食堂でビールを注文してグビグビ飲んでいた。
  すると一人のおっさんが話しかけてきた。

  「おう。ニーチャン。どっから来たんや?」
  あー。はい。あの。日本です。
  「おお。そうか。日本。テクノロジーの国やなあ」
  そうでおます。
  「ところでニーチャン。宝捜しに興味はないか?」
  ええ?何ですか?

  なにやらそのおっさんの話では、フィリピンの小さな島々には旧日本軍の隠し財宝があちこちに眠っていて、実際それを探しつづけている人も少なくないらしい。

  「どや。ニーチャン。俺に投資せーへんか? 一攫千金狙えるで!」
  そんなこと言われたけど、汚い食堂で初めて会ったおっさんに「はい。よろしく」と、お金を差し出すわけなんかないやんなあ。というわけで、適当にあしらって嫁実家に戻った。
  家に戻ると、嫁がエライ剣幕で「誘拐されたらどうすんの!」と怒っていたのだけど、僕は、おっさんの言葉が気になって頭から離れなかった。

  フィリピンの小島に宝捜し冒険に向かう自分の姿!

  想像するとワクワクして眠れないほどだった。
  調べてみると確かに「山下財宝」なる旧日本軍のお宝がフィリピンのどこかに隠されているという伝説は数多く残っているようで、おっさんの言葉に現実感が滲み出て興味深いと思った。
  冒険小説にしかでてこないような隠し財宝の存在が自分の身近にあるような気がして、歴史ロマンに酔いしれた。でも、嫁にそのことを話すと、「騙して金をせしめようという人が大げさな作り話してるだけよ」っと、あっけない。
  フィリピンで唯一印象的な出来事でした。

★過去の記事36-40
 ネパールから賄賂を払って国境を越えた話〈41〉
 ヨーロッパ人とイスラエル人の対立について〈39〉