黒人の国「ジャマイカ」に降り立って(その1)〈43〉

  ジャマイカに行ったことがある。もう今から20年近くも前のことだ。
  ジャマイカは黒人の国である。アフリカに行ったことがない僕にとって黒人の文化や感性を目の当たりにしたのはこれがはじめてで、妙に不思議な印象を数多く受けた。そのいくつかを綴ってみよう。
  ワシントンDCからジャマイカ行きの飛行機に乗ったのだけど、乗客は90%がジャマイカ国民と思しき黒人で、それらしき体臭で満たされた機内の雰囲気はすでに遥かなる異国のリズムを刻んでいた。印象的なのは機内アナウンスで「只今より機内食をお配りいたします」とのフレーズが流れたとたん

  「ぎゃぁっほう~!!」

  と、ほとんどの皆さんが歓喜の絶叫をあげて機内は大変な盛り上がりを見せた! なんかみんな興奮しとる。
  それまで何回も飛行機に乗ったけど、これほど機内食を純粋に喜び、表現する人々を見たことがなかった。アメリカやヨーロッパ行きの飛行機だと人々は表情一つ変えずに食べ物を口に運ぶのに・・・。
  確かに考えてみれば機内食というのは美味しく楽しい。高度数万メートル。空と宇宙のハザマで遥か下方に雲海を見下ろしながら、神の領域でいただく料理には味覚を超越した感動があるよなあ。気分はウキウキ。心ワクワク。喜ばずにいられないこんなことを、どうしてクールでいられる理由があるのか。それは純粋にうれしいことだ。そんなことを思い出させてくれる感性の持ち主たちが住まう国。ジャマイカへ、僕はそうして降り立った。

  僕がジャマイカのモンティゴベイで一週間ほど宿泊していたのは、普通の住宅地にある一般の民家である。一泊につき幾ばくかの金を払ってホームステイさせてもらっていた。
  そこの息子のアンディ(高校生ぐらいの子だった)と仲良くなり、一緒によく遊んだのだけど、彼がことあるごとに言うには

  「黒人はアホだ。白人とか黄色人の方がずっと賢い。ほんとに俺たち黒人はアホなんだよ」

  なんて言う。
  ある時、海水浴客で賑わうビーチで海を眺めながら彼はこう言った。
  「知ってるか。アメリカの知能指数調査で黒人の知能指数平均は白人より低いのだ」と。
  僕もその話を知っていた。で、こんな風に言ってあげた。
  自分たちの人種のことをそんなにアホアホ言うもんじゃないよ。それにアメリカの資料で黒人の数値が低いことは事実だけど、それは設問のあり方に問題があるんだよ。例えば子供の知能指数テストの問題にこんなのがある。
  「あなたは2ドル持ってケーキを買いに行きます。ところがケーキは4ドルでした。さあどうする?」
  この設問で答えとして点数が与えられるのは「半分だけ売ってもらえないか交渉する」「あとで2ドル持ってくるので、とりあえず今2ドルでケーキを持って帰れないか交渉する」等々そんな感じ。でも、黒人の多くの子供の答えは「スイカを買いに行く」となる。だってアメリカの黒人の子供の普通のおやつだから。でも、これは得点対象の答えじゃない。つまりテストの問題自体が白人の生活を主体にしたもので、黒人の生活習慣とか考えられていない。アメリカの黒人は不当に知能指数を低く評価されているだけなのさ。
  するとアンディ。
  「おまえはどうしてそんなこと知っている。やっぱり賢い。そんなこと知らない。俺たち黒人はやっぱアホだ」
  たまたま、なんかの本で読んだだけの知識なんだけど。そんなに卑下しなくても・・・。
  とその時、突然のスコールが降り出した。僕とアンディはスタンドバーの屋根の下へ場所を移した。海に目をやると先ほどまでキャッキャと水遊びをしていた黒人たちがどやどやと海から上がってくる。それを見たアンディ

  「見ろ。やっぱり黒人はアホだ。雨が降ってきたからってどうして陸に上がる? 海水浴してどうせ濡れてんだから雨が降ったって一緒だろ。なに考えてんだ。ほんとにアホだ。ああ頭が悪いんだ」

  よよよよよ。と憂い崩れるアンディ。僕はどうしていいのかわからず、スタンドでビールを注文するしかなかった。
  別にアホやからってわけじゃないのやろうけど・・・。ウーン。イロイロ考えさせられたジャマイカでした。   (つづく)