ヤクザをシバけば、意識は光速を超える!
<感覚的な時間と実際の時間の流れ>

 

集中すると世界はスローモーションになる
 タクリーノには日本拳法の達人や元ボクシング選手なども来られる。酔いが回ると「今までにヤクザを何人シバいたか?」なんてことを競い合われて冷や汗タラリなのだけど、ときにはおもしろい話も聞ける。僕が一番興味深かったのは、試合で極端に集中すると時間の感覚が変わるという話である。
 あるボクサー氏によると最終ラウンドで勝つか負けるかの接戦でアドレナリンと疲労の極地が交錯すると世界がスローモーションに写るという。相手の繰り出すゆっくりとしたパンチをギリギリですり抜け、「こ~の~腕~。もっ~と~速~く~動かん~かい~」とイライラしながら自らのパンチを繰り出すという。これは高いレベルのフロー状態に入っている証拠である。フロー状態とはもちろん風呂に入っている状態ではなくて、最高の集中状態で無我の境地ともいえる状態である。ちなみに僕は風呂に入っている時は無我の境地なのだけど。
 僕にも似たような経験はある。トラックレースの4km速度競走で集中して走っていて、突然前方でガシャガシャと数人の落車が発生した時のことだ。危ないっと思ったその瞬間、世界はスローモーションに変わった。前方でゆっくりと転げていく選手の状況をつぶさに観察しながら自分が安全に回避できる進路を冷静に判断していた。路面に叩きつけられている2人の選手のほんの僅かな間をスレスレで通り抜け安全を確信した瞬間、世界の動きは再び通常の早さに戻った。
 極度の集中が自己の時間の流れの早さを変えてしまう。僕はその体験によって「感覚的な時間の流れと実際の時間の流れ」という概念を考えるようになった。

 

相対性理論的にはタイムトライアルはフェアじゃない?
 同じような意味で「色」も人間の時間感覚を変える働きを持っているらしい。赤系の色は集中力を高めるので時間の流れがゆっくりに感じるというし、逆に青系の色を見ていると時間の流れが早く感じられるという。だったらレースの時にかけるサングラスは赤系がいいのか? それとも青系がいいのか? 集中力を作り出す赤系がよさそうだけど、苦しいレースは早く終わってくれた方がいいから青系がイイのか? ウムムムム。わからん。
 そう考えると、楽しい時間が早く過ぎ去るというのは、どういうことなんだろか? リラックスしてるから時間の流れが早い。つまり「リラックス」は「集中」とは対極の対時間効果を持つものなのか。ウムムムム。これもよくわからん。
しかし、感覚的な話じゃなく、実際の時間の流れとして確実にわかっていることは相対性理論によれば、すべては「相対的」であるということである。つまり人間が感じる感覚以外で「時間」は実際にはその時々で流れの速さを変えている可能性があるということなのだ。ということは、個人タイムトライアルで一番目に走った選手と最終走者では時計の動きの早さが違うかもしれないということで、時間的感覚の物理学的流れから見てタイムトライアル競技は選手にとって条件が平等じゃないのでは? なんてね。

 

人間の意識の速さは無限なのだ
 僕は毎月このコラムを書く為にネタを考えるのだけど、ほとんどの場合、骨となるストーリーは一瞬のヒラメキとなって現れることが多い。言葉に表せば1000文字にもなるような話が理論として0・1秒で確認されてしまうのだ。それは僕だけのことじゃなく、長い夢でも脳波を調べてみると実は一瞬のことらしいから、人間の意識は極端に早い速度にまで達することがあるのだろう。
というわけで「ヤクザをシバく時には、さすがにスゴク集中するだろうから、意識の速度は極端に高まって、もしそれが時間の相対性による時計の動きの早さと重なった場合、パンチは光速を超えて見えなくなるのでは?」とボクサー氏に言ってみた。
 「OK牧場~!※@!?(酔)」
 ドランカーの彼の意識はとても速くて、ついていけませんでした。やれやれ。

 


追記>長い情報が人間の意識の中で一瞬にあらわせてしまうのは、よくきくこと。死ぬ前に走馬灯のように人生の記憶がめぐるとかあるし。村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の小説のテーマも実は、死ぬ前一瞬の意識が走馬灯のように長く引き伸ばされ、それが死後の世界をホウフツさせるほどの第二の別の一生に感じてしまうほどということである。つまり死ぬ前に見る長い夢が死後の世界と言えるのだ。普通に生きているときでも時間って相対性のあるものだから、長く感じたり短く感じたりするもんだなあ。