前輪と後輪にかかる体重比5:5。それが自転車が一番よく流れる比率なのだ
モゼールのファニーバイクに見る荷重比率の極意>

 

自然に「突き刺さる」のやから、しょーがないやん
 僕はレースに夢中になりはじめた高校生の頃から現在にいたるまで「変なフォーム」とよく言われる。それはいわゆる「前乗り」というやつで、高速状態になればなるほど前輪とハンドルに覆いかぶさり、サドルの最先端に座ってペダリングをする。自転車レース用語でいうところの「突き刺さる」という状態である。全然カッコよくないらしい。
 「突き刺さる」とは、サドルの先が肛門に突き刺さっているかのように見えるので、そう呼ばれているのだけど、もちろん現実にそんなことがあったら大変である。肛門科の前にロードバイクがズラリやで。
 僕自身も知人たちから「サドルの『サ』にしか座ってへん。『ドル』がいらんがな」とか「パンツにウンコの筋がついて大変やろ」とか、イロイロ言われてケッコウうっとおしいのだけど、いくら悩んでみても高速状態でシャカリキになると、自然にサドルの先端部分に腰掛けてしまうのだから、しょーがない。
 ところが、偶然見つけた古い自転車雑誌によると、僕の前輪荷重の前乗りフォームもある意味、理にかなっていることに気づいた。
 それは1984年に樹立されたフランチェスコ・モゼールによるアワーレコードの記事だった。12年ぶりにエディー・メルクスの持つ49.333kmの記録を塗り替えたモゼールのマシン。それ以前に見たこともない未来的フォルムを持った異次元バイクだった。「ブルホーンハンドル」「ディスクホイール」「小径前輪」。「ファニーバイク」と呼ばれるそうした形状のマシンはそれ以後、タイムトライアル種目において標準のベースとなっていく。実はそんなモゼールのアワーレコードマシンの基本設計思想の中に、僕の「突き刺さり」、つまり「前乗り肯定論」とも言うべき理論が隠されていたのだった。いったい、どういうこっちゃ?

 

モゼールバイクに見る、重心比率5:5の意味
 注目すべき点は、モゼールのアワーレコードバイクは、独走種目であるにもかかわらず、前輪が24インチの小径ホイールをセッティングしていることだ。チームパシュートなら前走者との間を詰めて空気抵抗を少なくする為に前輪を小さくするのは意味がわかる。しかし、独走のアワーレコードで、なぜモゼールは前輪を24インチにする必要があったのだろうか?
その理由は意外と知られていない。言っちゃいましょう! 今回の最重要ポイント。それは自転車の合成重心を前にズラし、前輪と後輪にかかる荷重比率を5:5に近づけるためなのだ!
 普通のフォームでの走行だと、一般的に前輪に30%、後輪に70%ぐらいの重さがのっかっている。しかし、モゼールを囲むプロジェクト陣が弾き出した答えは、「運動体としての自転車が理想的に加速、巡行できる重心比率は前輪50%、後輪50%である」ということだった。
 そのためモゼールは、前輪を小径にし、フロントセンターを詰めることにより、荷重比率を5:5に近づけたのだ。
「荷重比率5:5」。それは知る人ぞ知る高速走行の極意なのだ。

 

はたしてライプハイマーはウォシュレットを使っているのか?!
 そんなわけで、僕の「突き刺さり」フォームには深い理由があったのだ。それは自転車を速く進めるために体が自然に反応した結果なのだけど、とにかく前輪に体重を多く乗せることによって、荷重比率5:5を実現しているということなのだ! だから「変なフォーム」と笑わないでちょーだいね!
 考えてみれば、プロでもTTになると、どの選手もかなりの「突き刺さり」ようである。ウンコがついて大変だろうけど、プロの世界は甘くないのだ。(ウォシュレットにすればつきませんね)
 そこで、イノーバッランを気取ってスマートでカッコよい後乗りにしている草レース選手に告ぐ。短いレースなら、前乗りにして前輪にもっと体重をかけよう。そうすれば運動体としての巡行性能が上がるのは、間違いない。モゼールもそう言っている!(確認してないんですが・・・)
 ただし、ハンドルの操作性と長時間のフォームの維持のことを考えると、やっぱり3:7ぐらいの配分が良いようなので、そのあたりは状況に応じて考慮しましょうか。
 ちなみに僕、レースをはじめた高校生の頃、初デートの喫茶店の彼女の前で、緊張のためかイスの前端にちょこんと座る「前乗り」で話してたのを思い出した。今思えば、それって、彼女との合成重心を5:5に持って行きたかったからなのかなあ?!

 

追記>写真はたっくんバー。その昔僕が開発したハンドルです。当時専門種目としていたトラックの四〇〇〇速度競走やポイントレースを5:5の体重比で走るためにつくりました。ファニーバイクに装着すれば当時のTTバイクとマスドレースを兼用できます。ステムの長いドロップハンドルをファニーにつけたこともあったんですが、ダッシュ剛性を考えるとブルホーンに上の方が良かったです。しかし当時、速度競走とポイントレースはブルホーンハンドルが使用禁止だったので、上部にドロップ形状の補強をつけることによりルールを回避して、機能上はブルホーンと変わらないこのハンドルを使うことができました。僕はこのバイクで全日本2位4位に入りアジア選手権代表入りを獲得しました。思い出に残る開発です。