桃太郎が鬼退治をしたからシマノは堺にあるのだ
<神話に見る渡来系民族と日本自転車産業発祥の関係とは>

 

激しいスプリンティングの桃太郎たち
  TOJ堺ステージを見物に行った。
 昨年までは「大阪ステージ」という名前だったのだけど、今年からは「堺ステージ」に変わった。堺は日本自転車産業発祥の地であるのだから、自転車レースのステージ名になるのは当然といえば当然である。
そんな堺でおこなわれたTOJ第1ステージのゴール勝負は白熱して面白かった。大柄で赤鬼のような日焼けをした海外招待選手。そして、そんな外人選手に果敢に挑んでいく小柄な西谷や宮澤が、僕にはまるで桃太郎のように見えた。猿やキジみたいな顔をしたコージや真鍋が熱い逃げを見せ、最後のゴールで命をかけた鬼退治に死力を尽くす桃太郎たち。見ていて胸が熱くなる思いだった。
 残念ながら優勝はオーストラリアの赤鬼に持っていかれちゃったけど、そんな戦いを見て、思ったことがある。
 日本自転車産業発祥の地である堺という町と桃太郎って、関係あるんじゃないのかなあって・・・。極論になるけど、こうも思う。「桃太郎が鬼退治をしたからシマノは堺にあるのだ」と。
 なんのこっちゃさっぱりわかれへんよなあ。では、ゆっくりと説明していこう。

 

堺は古くから金属加工が得意な町だったのだ
 堺が自転車産業発祥の地になったのには理由がある。それは熱い鉄をコンキンカンと打ち伸ばし加工する、製鉄技術が昔からあったためだ。
 弥生時代のこと。瀬戸内海地方には多くの渡来系民族が住んでいた。中国大陸をルーツとする彼らは優れた製鉄技術を持っていたらしい。大和民族が彼らと接触する中で、そんな製鉄技術がいつしか瀬戸内海の終点であるナニワの地に伝えられたという。そんなわけで、堺では古来から金属加工技術が成熟していた。
 堺の金属加工技術は、やがて刀や包丁の製造を発展させた。戦国時代に伝わった鉄砲の製造をはじめたのも、そんな技術があったからだ。さらには明治になって、自転車が輸入されだすと、「自転車ってパイプや小ネジが多いから、鉄砲に似てるんちゃうの」と。つまり、刀→鉄砲→自転車の順で堺は金属加工技術をさらに磨き上げていったのだ。そうして、堺は日本自転車産業発祥の地として、「世界のシマノ」を頂点に現在にいたるのである。

 

鬼とは製鉄技術を持つ人々の比喩なのだ
 神話時代、瀬戸内海には製鉄技術を持った渡来系の民族が勢力を持っていた。一説によると桃太郎伝説というのは、どうやら大和民族が渡来系の製鉄民族を制圧したストーリーを物語っているらしい。神話にもそのことが綴られてある。
 吉備津彦命(きびつひこのみこと)という人がミカドの命を受けて、岡山の渡来系民族である温羅(うら)を成敗したという。つまり吉備津命が桃太郎であり、温羅が鬼というわけだ。ちなみに鬼というのは製鉄技術を持つ民族の象徴であるという。鬼の顔はタタラの火で焼けた赤顔のイメージであり、金棒は鉄器を駆使するイメージだ。
 つまり、桃太郎の話とは、「年をとってもバイアグラを飲んで頑張れば子宝に恵まれるかもよぉ」という意味では決してなくって、大和民族が製鉄民族を制圧して、その技術を手に入れたという文明的なストーリーなのである。
 そんなわけで桃太郎が鬼退治をしなければ、大和民族が製鉄技術を手に入れることは難しかったはずだ。つまり堺に金属加工の技術が集結することはなかった。そうすれば自転車産業も堺にはなかっただろう!
 ふう。やっとつながった。だから「桃太郎が鬼退治をしなければシマノは堺になかった」ということなのだ。やれやれ。小難しい話ですいません。
 まあ、そんなことも踏まえて「桃太郎魂」を持つ日本のトップレーサーたちに願います。優秀な自転車レースのノウハウを持つ外人選手の赤鬼たちを退治して、シマノと同じく世界の頂点に君臨できる製鉄?技術と力を身につけてちょーだい。おじいさんは宝物を待っていまーす。


追記>ダイニングバータクリーノがある大阪市西成玉出は、堺に程近い。幼心に気がつけば、島野やサンツアーに自転車レースのチームがあるのをなぜか知っていたし、彼らに憧れてレースの世界に踏み込んだのも自然の成り行きだった。つまり僕が自転車に感化された男なのはもちろん桃太郎のおかげというわけだ。ちなみに僕の住んでる玉出近くは一寸法師の出身地らしいです。
★読者から→これはスゴイコラム。桃太郎とシマノの発祥を結びつけるなんて。結論は比喩的で幻想的なウエサカコラム特有の味があるけど、話の内容は真実だ。鬼が製鉄技術を持つ渡来人が、桃太郎(大和朝廷)によって駆逐され奪われた技術が堺にたどりついた。学術的にも注目できるてんがるし、何よりロマンを感じますね。DuraAceの光沢に桃太郎のオボロげなシルエットが見える!