「自転車競技はトラックにはじまりトラックに終わる」。ベロドロームで自転車の基本を見直せ!

 

その昔、トラックレースは自転車競技の花形だったはずなのに
さて今回は隣のページでも少し触れたトラックレースの話をしよう。
僕が自転車競技にのめりこんだ今から35年前、日本自転車界はトラックレースが花盛りだった。「自転車競技マガジン」という雑誌があったけど、内容を見ればトラックレースの記事ばかり。関西CSCでは「シマノvs日大戦」なんてトラックイベントがあって、チアガールのネーチャンがパンツを見せながら踊っていたもんだ。
そんなわけで僕ら世代の選手にとって自転車競技とはトラックレースを意味していた。あのスリバチのような走路が僕らにとって「聖なる場所」だったのだ。
しかし時は流れ、いつしかロードレースが世間の注目を浴びる時代がやってきた。悲しむべきかな、現在トラックレースは競技人口が減り、マイナー化が深刻な問題となっている。
しかし、よく考えて欲しいことがある。世界のロードレースのトップに君臨する選手の多くが実はトラック出身ということだ。ジャパンカップで優勝したマイケル・ロジャースはトラックのジュニア世界選手権で金メダルを取っている。また、2012年ツールの覇者のブラドリー・ウィギンスも世界選や五輪で多くのメダルを獲得しており、彼の父親もまたトラック選手であったというDNAの芯からトラックの血族だ。古いところでは、ジロで優勝したロシアのエフゲニー・ベルツィンは1990年の前橋での世界選4km個人追い抜きで優勝しているし、同じくロシアのエキモフもトラック出身だ。さかのぼれば、ツールで200kmを独走してステージ優勝したベルギーのパトリック・セルキュは6日間レースの帝王と言われ「自転車競技はトラックにはじまりトラックに終わる」という名言まで残している。

 

トラックが育むもの。それは自転車競技の基本なのだ!
セルキュが語るとおり、トラックレースにはロードレースを含めた自転車競技の基本要素が詰め込まれている。
まずは「レース展開を読む能力」が修練される。ポイントレースを例にあげれば、洗練されたメンバーの中でアタックの応酬が繰り広げられることにより、ロードレース戦術の縮図体験ができるというわけだ。そんなわけでトラック出身選手はレース巧者が多い。ちなみに野性的な位置取りでスプリント勝利を獲得するカベンディッシュもトラックの経験が豊富な選手だ。
次に「理想的なペダリング」の習得ができることも重要だ。固定ギヤでの高速回転は、すべての条件に対応できる効率の良い基本ペダリングを育てる。これはTTから山岳まですべてのステージで活躍できるベースになる。ウィギンスのトラックで磨かれた美しいペダリングはその骨頂だ。
そして、変速やブレーキングのない状況は、意識の散らばりを抑え「集中力」を養成してくれる。それは一種の瞑想修行とも言えるもので、「癒しトラック教室」とか「抗鬱トラック大会」ぐらいあっても良さそうなもんだと思うなぁ。

 

選手諸君。「聖なるスリバチ」に集いたまえ!
ちなみにヨーロッパの多くの国では、ジュニア時代にトラックレースの経験が義務付けられているという。自転車先進国では「トラックは基本」という考えが根付いているというわけだ。
さらにトラックの良さは選手だけが恩恵を受けるものではない。観客からすると長時間待ちくたびれて一瞬で過ぎ去っていくロードレースと違い、観客席からレースのすべてを掌握できるそれはエンターテイメントとしても価値が高いはずだ。
そんなわけで、日本自転車界の未来を思えば、世界レベルへの到達と東京五輪選手強化、さらには一般への認知波及のため、トラックレース推進は欠かせないことじゃないのかなあ。大体からして過去に日本が自転車で獲ったメダルはすべてトラック競技だということも忘れちゃアカンよ。さあ選手諸君! あの「聖なるスリバチ」に集うのだぁ! そしてトラックレースを盛り上げよう。僕も今夜のオカズ、ホウレン草のゴマ和えをスリコギでクリクリしながら応援するで~。なんのこっちゃ。