オブリーの自伝映画「トップランナー」(邦題)を観て、睡眠について考えた。

 

今年はアワーレコードの挑戦ラッシュ!
UCIの機材レギュレーションが変更されたことにより、アワーレコード挑戦が再びホットな話題となっている。昨年のフォイクトの挑戦を皮切りに、今年はウィギンスカンチェラーラマルティンなどの激走によって地球の重力場が変わってしまうんじゃないかと思うぐらい、まあ楽しみな挑戦ラッシュがやってくる。
さてこのアワーレコードの挑戦ラッシュ、実は20年ほど前にもあった。インデューラインロミンゲルが奮起し、そしてボードマンがスーパーマンみたいに56km台をマークして自転車界を盛り上げてくれた。しかし不思議なことだけど、当時の記録はすべてその後に抹消されている。それって(財)地球重力場協会の陰謀やったりして?!
そんな20年前の挑戦ラッシュのキッカケになったのがグレアム・オブリーというスコットランドの個性的なライダーだ。無名のアマチュア選手が、廃棄機材や洗濯機のベアリングを使って自作した特殊なマシンで、二度のアワーレコードと二度の世界選手権パシュートの王座を獲得し、世間を騒がせた。特筆すべきは「オブリー・スタイル」と呼ばれる、折りたたんだ両腕を体側に格納する独特なフォームだ。一見すると腕立て伏せ出来ない人みたいだけど、もちろん凄いのだ。ちなみに、これって空気抵抗の軽減だけが目的じゃない。前輪と後輪にかかる体重比を50%に近づけることで推進性を高める運動力学や、肩関節を背面に緊張させるとによる体幹の後筋肉の出力増大など、バイオメカニクス的観点からも絶妙に優れたライディングフォームなのだ。

 

オブリー自伝映画で観た、短い睡眠のこと
そんなオブリーの自伝映画で「トップランナー」(邦題)というのがある。自転車の映画なのに「ランナー」だなんて意味オカシイんじゃねえの。原題の「フライング・スコッツマン(空飛ぶスコットランド人)」のままで良かったんじゃねえの。なんて思うけど、観るとこれがケッコウ興味深い。UCI(映画ではWCFとなっている)との確執や、うつ病で自殺未遂したとか、波乱万丈人生がハンパない。ちなみに映画には描かれてなかったけど、近年オブリーはゲイであったことをカミングアウトしている。このあたりもハンパじゃない。
その映画の中で僕が一番気になったのは、オブリーがアワーレコード挑戦の前夜、多量の水を飲んで2時間おきに目を覚ますところだ。
一般常識的に「レースの前には熟睡しなアカンやろ!」てなもんだけど、どうもオブリーにとっては違った理論があるようなのだ。考えてみると、思い当たる節はある。陸上競技の短距離選手はレースの前日に寝過ぎると翌日に動きの切れが悪くなるから徹夜するって聞いたことがある。自分事だけど、鈴鹿エンデューロの前夜に車の中で二時間ほどウトウトしただけで走ったら意外と調子良かったこともそうだ。どうやら、たっぷり眠ることとスポーツのパフォーマンスは正比例の関係ではないようだ。そんなことを勉強しようと睡眠学の本を読んでみたら難しくて眠むたくなってもうたがな。

 

野性的睡眠がアワーレコード樹立のカギ?!
人間は普通、一日に長い睡眠を一度だけバコッと取る。これを「単眠」という。でも多くの動物は浅くて短い眠りを何度もとる。それを「復眠」というのだけど、自然界ではこちらの方が普通なのだ。野性の世界で、もし深く眠り込んでしまったら、天敵が襲ってきた時に逃げるタイミングが遅れて捕食されてしまうからね。人間でもスペイン人やアラブ人みたいにシエスタも含めて二度睡眠の民族もいるけど、猫なんて一時間睡眠を一日に14回も取るらしいからマネできんわなあ。
そんなわけでオブリーの「二時間復眠」には野生の能力を引き出すような秘密があるのではないのか! ちなみに二時間おきに起きると「レム睡眠」が多く出現するので、脳が活性化して活動する準備を寝ながらにより効率よくできるということもある。さらに「レム睡眠」って原始的なトカゲの眠りがルーツなので、このあたりも野生能力効果と関係あるかも?
考えてみれば、「眠る」「食べる」「セックス」というのは動物の三大本能で、しかもどれもが気持ちよい。だからと言って、食べることがアスリートにとって重要でも、満腹飽食じゃあ高いパフォーマンスは望めない。もちろんレース前夜にセックスやりまくって目の下にクマ作って黄色い太陽眺めてたら腰に力が入らんわなあ。同じように睡眠もホドホドってことかなあ。そんなわけでカンチェラーラ君たちに助言しよう。アワーレコード挑戦前夜は二時間ごとに起きてオブリーの自伝映画を見るべし!ってか。