上阪卓郎の小説『しめ飾り』

この小説 「しめ飾り」 は、二年間海外放浪をして帰国した男が、母親や兄に 「ろくに働きもしやがらんと、このアホが」 と罵られながら、家事手伝いをする年末年始の大阪西成が舞台です。 大晦日の日、男は母親にしめ飾りを親の持ち家に飾るように命ぜられますが、バーで飲んだくれて、出遭った女とアバンチュールを楽しむうちに、それを忘れてしまいます。 年が明けてバーのマスターに連絡を取り、どうにかしめ飾りを手にしますが、せっかく手に入れたそれを自転車に轢かれたり、相撲好きでゲイのハワイ人と揉み合ったりするトラブルなどが続々と発生、しめ飾りはボロボロに変わり果てた姿になってしまいます。 主人公は、しめ飾りを飾っていない事実が母親や兄に発覚するのを恐れながらも、なんとかボロボロのしめ飾りを再生しようと奮闘しますが、ふと休憩した公園で、しめ飾りを持ち去ろうとする人物が現れます。 慌てて追いかけて、激しいタックルの末に何とか捕らえたしめ飾り泥棒は、哀れな境遇の東北男で、変わり果てたしめ飾りを納豆の苞と勘違いしたと言います。主人公は男に牛丼をおごり、二人は次第に仲良くなっていきます。 二人は力を合わせてボロボロになったしめ飾りを再生しようとしますが、男の意外な正体や、しめ飾りの由来に関する話、そしてアバンチュールを楽しんだ女の再びの登場や母親との鉢合わせが、ほのぼのとした大阪の下町を背景に進められていきいます。 しめ飾りを中心に巻き起こるコメディー風小説ですが、筆者の実体験をベースに描かれたストーリーは、「どこからどこまでが実話か」と言う観点から、読み進んで頂いても面白いかもしれません。