宇宙を支配する力「振動」。それを調和させれば自転車が速くなる!?

 

恐怖のシミー現象
「シミー現象」というのがある。高速でダウンヒルしている時に突然、自転車全体がブルブルワナワナと振動しはじめて、コントロール制御不能の緊急事態に陥り、頭の中でハザード音が鳴り響くと言う、とてつもなく恐ろしい現象だ。予期せぬ異常な状況にパニクって転倒する可能性はあるし、最悪の場合あの世行きである。
でも、そんな頻繁に起きることでもない。僕は長い自転車人生の中で一度だけ経験したことがある。まあ、一度も体験されない幸運な人がほとんどだ。原因については謎に包まれた部分があって、かつてはフレームのジオメトリーに欠陥があるためだとか、小さいおっさんたちがトップチューブの中でラインダンスを踊っているためだとか言われていた。
ちなみに、今では一つの要因だけで発生するものではないことがわかっている。「ホイールバランスの乱れ」「フレームの固有振動周波数」「路面からの振動周波数」「ライダーの身体の震え」などが絶妙に上手く?重なった時、共振はうねりとなってハンドル操作もままならない巨大なブルブルへと成長し、僕らを恐怖させる強力な現象となるのだ。
他にも振動がもたらすマイナスな現象はある。黎明期のカーボンフレームの接着部分がよく抜け外れたという事例がそれだ。25年ぐらい前のルックやTVTのカーボンフレームはアルミのラグにカーボンのチューブを接着したタイプの物だったが、なんせアルミとカーボンでは固有振動数が違う。走行すると二つの違った周波数の振動が接着面にストレスを与える。で、パイプが抜ける。そんなわけで現在のコルナゴやトレックのカーボンボンディングフレームはラグもカーボンにすることでそれを回避している。

 

「振動」は宇宙のすべてを支配しているのだ
そんなことを考えれば、「振動」ってまったくもってバカにできるもんじゃないと悟る。それどころか「振動」は世の中にとってとても重要な現象であることにも気づく。例えば僕らの心臓は一分間に60回ほど振動して収縮しながら血液を全身に送りつづけている。それから音は空気の振動だ。そして光はさらに波長の短い振動なのだ。思えば、地球は銀河系のまわりを移動している太陽を公転しているわけだから軌跡をグラフにするとこれもまた振動なのだ。さらには「超ひも理論」によると物質の最小単であるクォークの中ではメチャメチャ小さな「ひも」が振動することが物質の根本的な性質の正体だと言うし、成人用の玩具だって振動による旋律が楽しい夜を演出するのだ。そんなわけで、シミー現象とは逆説的に「ビバ振動!」を叫びながら、振動のプラス現象も考えてみた。

 

振動をうまく調和させれば自転車が速くなる?!
ところで音楽では「ド」「ミ」「ソ」の音を同時に鳴らすと人間にとって心地良く聞こえることが知られている。それを「和音」という。でも、どうしてそれが気持ちよく聞こえるのか? 先に述べたように音とは空気の振動である。そして「ド」「ミ」「ソ」のそれぞれの振動数は倍数で重なる部分がある。でも「ド」「レ」「ファ」はあまり気持ちよくきこえないのは、重なる倍数が少ないから。和音の心地よさの秘密とはそれだ。つまり、振動数の調和は、恐怖のシミー現象とは逆に人間にとって有益な現象ともなりえるのだ。
自転車でも振動周波数が調和した時に素晴らしいプラスのパフォーマンスが発揮できることがある。これは主観的な体験だけど、その昔、コルナゴのC50とカンパのボーラを組み合わせて試乗したときフレームとホイールの固有振動数というのか、周波数がバッチリ調和して、登り坂なのに体をゆするだけでグングンと軽快に加速していったことがある。まるでフレームとホイールが生き物のように共振しながら、前に推進するために効率の良いうねりを発生させたような。すなわちこれも、シミー現象とはまったく逆な、偶然の絶妙な調和が推進力になった現象だろう。よし。これを「振動調和推進力現象」と名づけよう。
考えてみたら、科学実験でプロペラをつけた軸を棒でゴシゴシ擦って振動を与えると、風も受けてないのにプロペラが回転することもあるんだから、振動を上手く調和させたらそれが自転車を速く走らせる助けになることは想像に難くない。
もっと考えたら、ライダー自身が自転車の持つ固有振動数を直感的に感じとって、体を揺らし、うねりを与えながらペダリングすればコルナゴとカンパを組み合わせなくても「振動調和推進力現象」を起こすことが出来るのじゃないのかなあ。よっしゃあ。では来年の鈴鹿エンデューロに向けて振動を感じ取る鍛錬を積むとしよう。とりあえず成人用玩具でも買いに行くか。